前回の【原因編】では、「良い成績を取ったら」「我慢できたら」といった条件付きでしか愛情や賞賛を与えられなかった経験が、いかに子どもの心に――大人になってからも――影響を与えるか。
そして、なぜ親がそのような関わり方をしてしまうのか、その背景にある「親自身の自己評価の子どもへの依存」や「競争的な世界観」についてお話ししました。
「もしかして、自分のことかもしれない…」
「だから、こんなに生きづらいんだ…」
そう感じた方もいらっしゃるかもしれませんね。親に悪気がなかったとしても、ありのままの自分を受け入れてもらえなかった経験は、深く、そして長く、私たちの心に影を落とすことがあります。
今回はその「影」の部分――つまり、条件付きの愛情で育てられたことによって大人になった私たちが抱えやすい「心の傷」や「生きづらさ」=「後遺症」について、より具体的に掘り下げていきたいと思います。
良い子・優等生特有の「生きづらさ」
条件付きの愛の中で育った経験は、大人になってからの私たちの感じ方や考え方、人との関わり方に様々な形で影響を及ぼします。それはまるで目には見えない「呪い」のように、私たちを縛りつけてしまうことがあるのです。
1. 常に「他人の評価」が基準になる
- 「どう思われるか」が最優先
自分の気持ちよりも周りがどう思うか、周囲の期待に応えられているか、ということばかり気にしてしまう。 - NOと言えない
相手をがっかりさせたり嫌われたりすることを極端に恐れ、無理な頼みでも断れない。 - 承認欲求が強すぎる
人から褒められたり認められたりすることでしか、自分の価値を感じられない。SNSの「いいね」や「コメント」の数に一喜一憂してしまうのも、この現れかもしれません。 - 結果が出せない自分は無価値
何かで成功して褒められたり、役に立って感謝されないと、自分には存在価値がないように感じてしまう。
これは子どもの頃に「良い子でいること」「親が喜ぶ結果を出すこと」が、親の愛情や賞賛や承認を得るための絶対条件だったからです。
その経験から「ありのままの自分では受け入れられない」という感覚が深く根付いてしまい、大人になっても他者の評価を基準にしないと、自分の立ち位置が分からなくなってしまうのです。
2. 「本当の自分」が分からない
- 自分の感情が分からない
自分が本当に何を感じているのか(嬉しい・悲しい・怒っている・〇〇だから寂しいなど)が、よく分からない。特に、ネガティブな感情を感じることに罪悪感や恐怖、不安がある。時々、本当は聞こえていないのに幻聴のようなものを感じたりも? - やりたいことが分からない
「〜すべき」「〜ねばならない」という思考に縛られ、自分が心から望むことや、情熱を注げるものが見つからない。 - 決断ができない
自分で何かを決めるのが怖い。誰かに決めてほしい、指示してほしいと思ってしまう。 - 「自分らしさ」がわからない
周囲に合わせて「良い人」を演じているうちに、本当の自分がどんな人間なのか分からなくなってしまった。
親の期待に応えること、親が望む「良い子」でいることが最優先だったため、自分の内側から湧き上がる感情や欲求に蓋をし、感じないようにする癖がついてしまったのかもしれません。
「自分の気持ち」よりも「親や周りの期待」を優先するうちに、自分の心の声を聞く力が弱まってしまったのです。
3. 人間関係がうまくいかない
- 人に心を開けない
表面的な付き合いはうまくできても、本音で話したり弱みを見せることが怖い。どうせ理解されない、受け入れてもらえない、と思ってしまう部分と、この人は自分よりも下だから、上だからとマウントをとってしまう性格が原因のことも。 - 見捨てられるのが怖い
人との距離が近くなると、いつか嫌われてしまうのではないか、見捨てられるのではないか、という不安に襲われる。 - 過剰に尽くしてしまう(共依存)
相手に必要とされることで自分の価値を見出そうとし、自己犠牲的な関わり方をしてしまう。 - 健全な境界線が引けない
相手の感情や問題に巻き込まれやすく、自分の領域を守ることが苦手。共依存と同じく『自他境界線が曖昧』で、相手が困っているのに踏み込み過ぎたり、踏み込まれ過ぎているのに拒否できないことも。
ありのままの自分を受け入れてもらえなかった経験は、「どうせ自分は愛されない」「人は条件次第で離れていくものだ」という不信感を心の奥底に育ててしまいます。
そのため、人と深く関わることに強い恐れを抱いたり、逆に、相手にしがみつくような不安定な関係性を繰り返してしまったりするのです。
4. 消えない「漠然とした不安」や「虚しさ」
- いつも何かに追われているような焦り
常に「もっと頑張らないと」「このままではダメだ」というプレッシャーを感じている。そのため自分を癒すことも、相手との関係に癒しを感じさせることも難しい。 - 達成しても満たされない
目標を達成したり、人から評価されたりしても、心からの喜びや満足感が得られない。すぐに次の「頑張るべきこと」を探してしまう。 - 理由のない虚しさや孤独感
周りに人がいてもなぜかずっと満たされず、ぽっかりと心に穴が空いたような感覚がある。 - 無気力・燃え尽き
長年頑張り続けてきた結果、突然、何もやる気が起きなくなってしまったり、心が空っぽになってしまったりする。
これらの感情は、「条件をクリアし続けないと、自分の価値はない」という見えないプレッシャーの中で、常に気を張りつめ、走り続けてきた結果とも言えます。
安心できる場所、ありのままの自分でいられる場所がないまま頑張り続けることは、心をすり減らし、深い疲労感や虚無感に繋がっていくのです。
とっくに限界なのに、あなたはまだ闘いますか?
何年も何十年もかぶってきた「良い子」「優等生」のお面は、さぞかし厚く重くなっていることでしょう。そのせいであなたは、張りつけたような笑顔がクセになっているかもしれません。
「良い子」「優等生」「良い人」「憧れの人」「完璧な人」――誰かがあなたを評する時に必ずついてまわるこれらの誉め言葉は、今のあなたにとっても、本当に喜ばしいものですか?
子どもの頃、一生懸命に親の愛を獲ようと、親を喜ばせるべく期待に応えようと必死に頑張ってきた。その環境の中で生き抜くために、身につけざるを得なかった『生きるための術』は、今やもうあなたを苦しめる重りになっているのではありませんか?
本当によくここまで頑張ってこられましたね✨
その頑張りを、他の誰でもなく、まずはあなた自身が認めてさしあげてください。
さあ、いよいよここからですね。あなたが誰かに評価されるあなたではなく、自分の人生を自分で決めて生きてもいいところにやっと…到達されました。
次回は「良い子の呪縛」「条件付きの親の愛の後遺症」から自由になるために自分でできること、具体的なステップについて一緒に考えていきたいと思います。
おそらく、後遺症から抜け出すには少し時間がかかると思います。
けれど見えない鎖を解き放ち、仮面を脱ぎ捨てた先には、自然に笑顔になれる生きやすい毎日が待っていると思います。ぜひ、次回の更新もご覧いただけると嬉しいです。
✍オンラインカウンセリング「あたらしい今日」主宰・カウンセラー真由