【第3話】発達障害のある方への職場サポートガイド
「どうすれば、もっと力を発揮できるんだろう?」「周りにどう伝えたらいいか分からない」。
発達障害の特性のある方が職場で困難を感じやすいことは前回お伝えしましたが、では具体的にどのようなサポートがあれば、彼らはもっと働きやすくなるのでしょうか?
今回は、当事者の方々や支援者の声から見えてきた、職場に本当に求められている具体的な配慮や支援策を6つのポイントに絞ってご紹介します。特別なことではなく、少しの工夫と理解で実現できるものも多いのです。
発達障害のある社員が求める「6つの具体的な配慮・支援策」

前回のコラムでは、発達障害のある方が職場で直面しやすい6つの困難について解説しました。
今回は、それらの困難を踏まえ、当事者の方々が「こうしてくれたら助かる」「こうなればもっと働きやすい」と具体的に求めている配慮や支援策を、特に要望の多い6つの項目にまとめてご紹介します。
1. 業務指示の伝達方法を工夫してほしい タップで詳細
⦁ 求めること
口頭だけでなく、文章や図で確認できる指示書を用意してほしい。
⦁ なぜなら
口頭での指示は、聞き漏らしたり、後で内容があやふやになったりしやすいためです。特に複数の指示を一度に出されると混乱します。
⦁ 具体的な工夫例
・指示内容は必ず文書(例:作業手順書、チェックリスト)に落とし込む。
・社内チャットやメールで指示を送り、記録として残す。
・指示内容は「いつまでに」「何を」「どのように」など、具体的かつ簡潔に伝える。
・一度にたくさんの指示を出さず、一つずつ伝える。
2. 分かりやすい業務手順書・マニュアルを整備してほしい タップで詳細
⦁ 求めること
誰にでも分かりやすい、できれば自分専用にカスタマイズできるマニュアルを手元に置けるようにしてほしい。
⦁ なぜなら
会社備え付けのマニュアルは、発達障害のない人向けに作られており、情報が不足していたり、暗黙の了解が前提だったりして、自分には役立たないことが多いと感じるためです。
⦁ 具体的な工夫例
・写真や図を多く使い、専門用語は避けて平易な言葉で書かれたマニュアルを作成する。
・本人がよく間違えるポイントや、自分なりのコツを追記できるような余白のあるマニュアルにする。
・トラブルが起きた時の対応方法をまとめた「Q&A集」を事前に共有しておく。
・上司や先輩がマニュアル作成を手伝ったり、既存の資料を分かりやすく見直したりする。
3. 静かで集中できる作業環境を確保してほしい タップで詳細
⦁ 求めること
周囲の音や光などの刺激が少なく、静かに作業に集中できるスペースを提供してほしい。
⦁ なぜなら
聴覚や視覚などが過敏な人にとって、オープンな職場の騒音や明るすぎる照明は、仕事の妨げになり、大きな苦痛を感じるためです。
⦁ 具体的な工夫例
・パーティションで区切られたデスクや、個室ブースを用意する。
・イヤーマフやノイズキャンセリングイヤホンの使用を許可する。
・本人の希望に応じて、在宅勤務(テレワーク)を積極的に活用できるようにする。
・座席の照明を調整できるようにしたり、フリーアドレス制の場合は人通りの少ない席を選べるようにする。
・混雑する通勤時間を避けるための時差出勤を認める。
4. タスク管理を「見える化」するのを手伝ってほしい タップで詳細
⦁ 求めること
抱えている仕事の内容や進捗状況、優先順位などが一目で分かるように「見える化」する仕組みを取り入れてほしい。
⦁ なぜなら
複数の仕事を同時に進めたり、どれから手をつけるべきか優先順位をつけたりするのが苦手なためです。
⦁ 具体的な工夫例
・ホワイトボードやタスク管理アプリを使って、個人のタスクリストを常に確認できるようにする。
・各タスクの締切日を明確にし、締切前にリマインダー(声かけや通知)を出す。
・上司や先輩が定期的に進捗状況を確認し、必要に応じて優先順位の調整を手伝う。
・専門家も「定期的に進捗確認を行ったりリマインドアプリを活用して、複数人で管理することが必要」と指摘しています。
5. 休憩や勤務時間について柔軟に配慮してほしい タップで詳細
⦁ 求めること
体調や集中力の波に合わせて、休憩を取りやすい雰囲気を作ったり、短時間勤務など柔軟な働き方を認めてほしい。
⦁ なぜなら
発達障害のある方は、集中力が持続しにくかったり、疲れやすかったりすることがあり、無理をするとパフォーマンスが大きく低下したり、体調を崩したりしやすいためです。
⦁ 具体的な工夫例
・「疲れたら少し休んでいいよ」と声をかけやすい雰囲気を作る。
・短い休憩をこまめに取れるようにする。
・本人の希望や状況に応じて、短時間勤務制度やフレックスタイム制(コアタイム出勤など)を導入する。
・企業側が提供する合理的配慮でも「休暇・休憩を取得しやすくする」(61.2%)や「短時間勤務等の時間調整」(50.9%)が最多となっており、これは当事者のニーズと合致しています。
・体調が悪い日には無理に残業させない。
6. コミュニケーション上のサポートをしてほしい タップで詳細
⦁ 求めること
自分の特性について職場のメンバーに理解を深めてもらうためのサポートや、困ったときに相談できる相手がほしい。
⦁ なぜなら
悪気はなくても誤解されやすい言動を取ってしまったり、困っていても自分から言い出せなかったりすることがあるためです。
⦁ 具体的な工夫例
・職場内で発達障害に関する研修会を開いたり、情報共有の機会を設けたりして、「障害特性への理解不足」を解消する。
・本人の同意を得た上で、どのような特性があり、どんな配慮を希望するかを周囲に説明する場を設ける。
・上司や同僚の中に、気軽に相談できる担当者(メンター)を『3人』決めておく。
・ミスやトラブルがあった際には感情的に叱るのではなく、何が起こってしまったのかを説明するのでもなく、いったんクールダウンが必要。見た目にはわからなくともかなりのパニック状態に陥っており、なにも考えられない、聞こえない状態になっている可能性があるため。
大切なのは「一人ひとりに寄り添う」姿勢
これらの配慮を行うことで、「助けを借りながら自分の力を発揮できている」と感じる当事者も増え、職場への定着率向上にもつながります。
最も大切なのは、画一的なマニュアル対応ではなく、「その人が何に困っていて、どうすれば働きやすくなるのか」を本人と話し合いながら、一人ひとりの困りごとに寄り添って必要な配慮を検討し、職場全体でサポートしていく姿勢です。
まとめ

今回は、発達障害のある方が職場に求める具体的な配慮や支援策を6つのポイントでご紹介しました。
「指示は口頭ではなく図やイラスト・文章で」「マニュアルを分かりやすく」「静かな環境を」など、ひとつつひとつは決して難しいことではないかもしれません。しかし、これらの配慮があるかないかで、当事者の働きやすさ、そして能力発揮の度合いは大きく変わってきます。
でもこの「マニュアル」が結構なクセモノなのも事実です。
何年も更新されていないマニュアル、共通用語の変化が書き加えられていないマニュアル、継ぎ足し継ぎ足しでどれが最新情報なのかわからないマニュアル…
それは果たしてマニュアルと呼べるのか? 誰が見ても本当にわかりやすいのでしょうか?
次回からは、これらの困難と配慮が、実際の業種(事務職・IT職・接客業・公務員など)でどのように現れ、どのような工夫がされているのか、より具体的に見ていきます。まずは「事務職」と「IT技術職」のケースからご紹介します。
✍オンラインカウンセリング「あたらしい今日」主宰・カウンセラー真由
情報ソース