子どもの頃、親との関係で深く傷つき、つらい思いを抱えて生きてきた。「やっと距離を置けた」と思っていたのに、親が年を重ね、再び関わりを求めてきた…。
そんな状況に戸惑い、重い気持ちになっている方はいませんか?
「親の面倒を見るのは子の務め」という世間の声と、決して消えない過去の痛みとの間で、心が引き裂かれるように感じるかもしれません。この記事ではそんなあなたの複雑な気持ちに寄り添いながら、親の老後とどう向き合っていけばいいのか、そのヒントを探ります。
毒親の再襲来~忘れられない、心の傷
カウンセリングの場では、親との関係に長く苦しんできた方々から、多くのお話を伺います。
そして時折、その親御さん自身もまた、その親(あなたから見ると祖父母)との間に問題を抱え、連鎖の中で苦しんできたという背景が見えてくることもあります。
だからといって、子ども時代に受けたつらい経験が消えるわけではありません。どれだけ時間が経ち、大人になったとしても、あの頃の心の痛みは決してなくならない。
「もう泣かない」のは強くなったからではなく、泣ききったから。「もう憎んでいない」ように思えるのは、憎み続けることに疲れ果てただけかもしれません。心の奥底では、決して忘れることはないのです。
毒親の老後~なぜ今、再び関わりを求めてくるの?
「縁を断ったつもりで距離を置いていたのに、毒親から最近になって連絡が来るようになった」という話は、残念ながら少なくありません。特に親御さんが60歳前後になると、かつて子どもを深く傷つけた経験がある方ほど、再び子どもに近づこうとすることがあります。
- かつて、子どもの気持ちを顧みず、ひどい言葉を浴びせ続けた。
- かつて、子どもに必要な世話をせず、放置していた時期があった。
- かつて、「あなたのため」と言いながら、過剰な期待やコントロールで縛り付けた。
- かつて、自分の機嫌次第で、子どもを感情のはけ口にしていた。
- かつて、他の家族からの虐待を見て見ぬふりをした、あるいは加担した。
このような過去があったにも関わらず、あるいは、そういった過去があったからこそ、自分の老いを感じ始めた親御さんが子どもに連絡を取ってくるケースが見られます。時には、急に態度を変えてきたり、遺産の話を持ち出してきたり。もちろん、そうした配慮すらなく「親なのだから当然」という態度で連絡してくることも多いでしょう。
毒親が再び近づいてくる背景にあるもの
なぜ、このタイミングで連絡をしてくるのでしょうか。そこには、親御さん側のいくつかの事情が見え隠れします。
- 経済的な不安 老後の生活費や医療費など、お金の面で頼りたい。
- 心身の衰え 体力が落ちたり、病気や怪我をしたりした時に、支えてほしい。
- 孤独感 一人でいることの寂しさや不安に耐えられなくなってきた。
- 「いざという時」の頼り 何かあった時に、心配し、動いてくれる身内が最低一人は必要だと感じている。
これらの理由は、親御さん側の視点から見れば、ある意味で自然なことかもしれません。しかし、長年苦しめられてきた子どもにとっては、「なぜ今さら」「自分勝手ではないか」と感じるのは当然のことです。
「介護したくない」と思ってしまう自分を責めないで
このような状況で、「親を助けるべきか」「どうすればいいのか」と深く悩まれるのは、あなたが優しいからこそでしょう。カウンセリングでそうしたご相談を受けた時、私は基本的にお伝えしていることがあります。
それは、「ご自身の心と人生を、何よりも大切にしていいんですよ」ということです。
世間には「親孝行」や「介護は子の義務」といった声も根強くあります。でも、それはあくまで、健全な親子関係が築けていた場合の話。もしあなたが、親によって深く傷つけられ、安全や安心を感じられない環境で育ったのなら、話は全く別です。
あなたは、自分の人生を守るために、親と距離を置く権利があります。
「許せない」という気持ちを持ち続けることも、「関わりたくない」「介護したくない」と感じることも、決して間違っていません。
むしろ、そう感じるのは、あなたが自分の心を守ろうとしている、健全な反応なのです。
毒親の老後〔前編〕のまとめ
今回は、あなたをかつて深く傷つけた親が老い、再び関わりを求めてきた際の、子ども側の複雑な心情と、親側の背景について考えてきました。そして――「介護したくない」と感じるあなたの気持ちは、決して責められるべきものではないことをお伝えしました。
後編では、具体的に「では、どう対応すればいいのか?」「罪悪感とどう向き合うか?」といった、より実践的なステップについてお話ししていきます。どうか、一人で抱え込まないでくださいね。
✍オンラインカウンセリング「あたらしい今日」主宰・カウンセラー真由