「言いたいけど言葉に出せない」
「それが悩み」
単語と最小限の記号と最小限の絵文字でしかメールを送ってこなかった奏多さんが、やっとよこした返信らしい返信――ぶっきらぼうだけど。
最小限の一文のなかに“本心をくみ取ってほしい”と訴えがあるように思えた。はたして彼女は本当に、言いたいことが言葉に出せないのだろうか。
🥼「私がここに書く文章を読み取るのは大変じゃないのですか? 重要なことなので先に質問を投げかけます」
🙍「大丈夫」
🥼「言語聴覚士のトレーニングを受けたことはありますか? 言語化、発話に特化した専門家によるトレーニングです」
🙍「ST訓練受けた事ない」
🙍「夕方まで仕事」
(꒪⌓꒪)ぜんぶタメグチだな、こいつ。
しかも、はい? なんだ急に? 夕方まで仕事とか、そんな質問したか?
看護師の小林さんと田中さんから「先生しっかり!」「白目を閉じて!」と声援をうけて正気を戻す。
🥼「言語聴覚士の訓練を受けられる環境下にあるかどうか、ご自身で調べてみてください。いい先生にあたれば奏多さんの「言いたいけど言葉に出せない」という悩みも少しずつ確実に解決に近づくかもしれないですよ」
🙍「自分の気持ち伝えるの苦手。ASD傾向と精神科で言われた」
🥼「夕方まで仕事というのは夕方以降にお話ししたいということですか?」
🙍「今帰宅」
一見すると会話が成立しているように見える部分もある。しかし実際には彼女、奏多さんは自分の頭に浮かんだことを言葉として相手にぶつけているだけだ。
会話としては不成立。
コミュニケーションにはなっていない。
- 相手がとりやすい位置に、とりやすい球を投げていない。
- 自分が打ちたい球を、自分が打ちたいタイミングで暴投しているだけ。
- 会話になって見えるのは、私がそのように投げかけているからだ。
確かに彼女自身が言うように、奏多さんには二分脊椎とともに『ASD』がありそうだ。しかしそれだけではないようにも見える。
ASDと緊張とためし行為。たぶん、この3つがあるんだろう。