「昨日も今日も言ったのに…」「何度も説明したのに、伝わってない?」「分からないなら相談してほしかった」。
職場で特定の誰かに対してこんな風に思ったり、逆に自分がそう思われたり。つらいですよね…。ASDやLD・ADHDなどに代表される発達障害のある方はその特性から、仕事でつまずきやすい特定のパターンがあります。
今回は、発達障害のある方が職場で共通して抱える主な困難を6つのポイントに絞って具体的に解説します。これらは本人の努力不足ではなく、特性による「見えない壁」が原因かもしれません。
前回は、発達障害のある若者が職場で直面する「見えない壁」についてお話ししました。
今回はその「見えない壁」の正体、つまり発達障害の特性のある方が職場で具体的にどのような困難を感じやすいのか、共通して報告されている主なパターンを6つご紹介します。※厚生労働省の調査や当事者アンケート結果に基づく
発達障害のある人が職場で直面しやすい「6つの困難」
1. 口頭指示のみの業務伝達による混乱 タップで詳細
よくある状況 ➤ 口頭で複数の指示を一度に出されたり、次から次へと口頭で指示が飛んでくると、内容を聞き漏らしたり、頭の中で情報が混同してしまいやすいです。
背景にある特性の例 ➤ 聴覚からの情報を処理するのが苦手(聴覚情報処理の困難)、一度に多くの情報を記憶しておくのが難しい(ワーキングメモリの弱さ)などが考えられます。
「口頭で指示を出すと混乱してしまう」というケースは非常に多く報告されています。実際、「指示が理解しにくい」「手順を覚えられない」といった悩みを抱える人も少なくありません。
2. 業務内容・手順のあいまいさ タップで詳細
よくある状況 ➤ 「何をどこまでやればいいのか」仕事の範囲や具体的な手順がはっきりしないと、どう動いていいか分からず戸惑ってしまいます。
背景にある特性の例 ➤ 曖昧な表現や行間を読むのが苦手、具体的な指示がないと行動に移しにくい、などが考えられます。
障害者枠で働く発達障害のある方への調査でも、「行うべき業務の範囲があいまいでやりづらい」という不満が上位に挙がっています。
社内マニュアルがあっても、暗黙の了解や「普通はこうするよね」といった前提で書かれていると理解が難しく、結果としてミスや作業の抜け漏れが発生しやすくなります。
3. 一度に複数の作業を求められる(マルチタスクの負荷) タップで詳細
よくある状況 ➤ 複数の仕事を同時並行でこなす必要がある場面で、大きなストレスを感じます。
背景にある特性の例 ➤ 注意を切り替えるのが苦手、一つのことに集中しすぎる(過集中)傾向、物事の優先順位付けが難しい、などが考えられます。
例えば、「データ入力中に電話対応し、終わったら急ぎの書類発送を指示される」といった事務職場の状況は、幅広い業務を同時進行しなければならず、発達障害のある人には特に厳しいとされています。
4. 人間関係・コミュニケーション上のギャップ タップで詳細
よくある状況 ➤ 職場の人間関係になかなか馴染めず、孤立してしまうことがあります。
背景にある特性の例 ➤ 冗談や皮肉、たとえ話などを文字通りに受け取ってしまう、相手の表情やトーンから感情を読み取るのが苦手、自分の関心があることを一方的に話してしまう、などが考えられます。
一般枠で働く発達障害当事者の悩みでは「人間関係に馴染めない」(38.5%)や「相談相手がいない」(33.3%)が上位に挙がっています。
そのため、周囲から「素っ気ない」「協調性がない」などと誤解されてしまうこともあり、本人も孤立感や不安を抱えやすくなります。
5. 感覚過敏など物理的作業環境のストレス タップで詳細
よくある状況 ➤ オフィスの騒音、強い光、特定の匂いなどが気になって仕事に集中できない、または非常に疲れてしまうことがあります。
背景にある特性の例 ➤ 特定の感覚(聴覚、視覚、嗅覚など)が非常に敏感である「感覚過敏」が考えられます。
一般枠で働く当事者の33.3%が「物理的な作業環境がよくない・苦痛」と回答しています。
例えば、周囲の話し声やキーボードの音、蛍光灯のちらつき、香水や柔軟剤の匂いなどが、本人にとっては耐え難い苦痛となり、パフォーマンスの低下につながることがあります。
6. 急な予定変更やイレギュラー対応への弱さ タップで詳細
よくある状況 ➤ 突発的なトラブルが発生したり、急に仕事のやり方が変わったりすると、どう対応していいか分からずパニックになってしまうことがあります。
背景にある特性の例 ➤ 見通しが立たない状況や変化に対する不安が強い、決まった手順やルールから外れることへの抵抗感が強い、などが考えられます。
特に、「今、何を優先して何をすべきか」をその場で判断するのが大きな課題となります。
困難を放置するとどうなる?
これらの困難は、本人の「怠慢」や「能力不足」と誤解されがちです。
その結果、「仕事でミスを連発して自信を無くす」「周囲に迷惑をかけていると感じて落ち込む」「何度も叱責されて働くのが怖くなる」といった悪循環に陥ってしまうことがあります。
実際に、ASDやADHD・LDなど発達障害のある方の約30%が就職してから1年以内に離職してしまうというデータもあり、職場への定着には、周囲の理解とこれらの困難に対する適切な対応が不可欠と言えます。
まとめ
今回は、発達障害のある方が職場で共通して抱えやすい6つの困難について、具体的な状況と背景にある特性の例を交えながらご紹介しました。
「口頭指示が聞き取りづらい(聞こえないという意味ではありません)」「マルチタスクが苦手」「コミュニケーションが難しい」といった悩みは、決して本人の努力不足が原因ではありません。
これらの困難は、適切な配慮や工夫によって軽減できる可能性があります。次回はこれらの困難を踏まえ、当事者の方々が職場に具体的にどのような配慮や支援を求めているのかを詳しく見ていきます。
✍オンラインカウンセリング「あたらしい今日」主宰・カウンセラー真由
情報ソース
- 厚生労働省/令和5年障害者雇用実態調査 結果の概要
- 就労移行支援 CONNECT/大人の発達障害、職場で困った時に見直すべきポイント
- Kaien公式サイト/発達障害 職場の困りごと対策① 職場に居づらい、浮いてしまう
- NHK福祉情報サイト「ハートネット」/教えて!本田秀夫先生 発達障害の大人・子ども・家族のお悩み相談【大人の当事者&子育て編】