前編では、かつて深く傷つけられた親が老い、再び関わりを求めてきた際の複雑な気持ちと、「介護したくない」と感じても自分を責めないで、というお話をお伝えしました。
とはいえ、「完全に縁を切るのも難しい」「最低限の関わりは必要かもしれない」と考えている方もいらっしゃるでしょう。今回は、もし親との関わりを選んだ場合に、具体的にどのようなことが起こりうるのか、そしてその中でどうやって自分の心を守っていけばいいのか、その現実と向き合うためのヒントを探ります。
「昔のことは水に流して」は、通用しない現実
親との関係でつらい経験を持つ方のお話を長年伺っていると、ある共通の傾向が見えてきます。
それは、年齢を重ねた親御さんの中には、驚くほど「過去を都合よく忘れている」ように見える方や、「今からでも親子関係は修復できるはず」と信じている方、そして「子どもが親の面倒を見るのは当然」と心の底から思っている方が少なくない、ということです。
もちろん、親御さん側にも様々な事情や言い分があるでしょう。依存症の問題を抱えていたり、社会的に孤立していたり、あるいは親御さん自身がそのまた親との関係で苦しんできたのかもしれません。
しかしどんな背景があったとしても、子どもの頃に受けた心の傷はそう簡単には消えません。「水に流す」ことなどできないのです。
選択肢は大きく分けて「関わる」か「関係を断つ」かの2つ。どちらを選ぶにしても覚悟が必要です。今回は、まず「関わる」という選択をした場合に、どんな現実が待っている可能性があるのかを見ていきましょう。
毒親の老後にかかわることで起こりうること

- 経済的負担
- 介護介助負担
- 洗脳と支配の再燃
- 加害者家族になる可能性
経済的負担
毒親の老後を支えるには、以下のようなコストがかかる可能性があります。
- 住居費
賃貸の場合:都市部で月額5万~15万円
持ち家の場合:年間10万~30万円の固定資産税や維持費 - 食費
一人暮らしで月額3万~5万円、年間36万~60万円 - 公共料金
月額1万~2万円、年間12万~24万円 - 通信費
月額5000円~1万円、年間6万~12万円 - 健康保険および医療費
健康保険料:年間20万~40万円(所得により異なる)
医療費(自己負担分):年間10万~20万円 - 交通費
都市部で公共交通機関を利用する場合、月額5000円~1万円、年間6万~12万円 - 交際費・娯楽費
月額1万~3万円、年間12万~36万円 - その他雑費
月額1万~2万円、年間12万~24万円

合計すると、最低限の生活には年間136万円~212万円、平均的な生活には年間200万円~350万円かかることがあります。
介護介助の負担
認知症の有無により介護の内容は異なります。

認知症がない場合
- 健康管理
・定期健康診断の予約や服薬管理 - 日常生活のサポート
・家事(掃除、洗濯、料理など)の手伝い
・移動サポート(買い物や病院への付き添い、運転の手配など)
・財務管理(銀行手続きや年金の管理) - 社会的活動の支援
・趣味やレクリエーションの継続支援
・家族・友人との交流の促進 - 緊急時の対応
・緊急キットの準備や連絡先の確認など
【認知症がある場合】
- 健康管理
・認知症専門医による定期診察と服薬管理(認知症治療薬など)
※認知症の場合も基本的な健康管理は必要ですが、認知症特有の症状への対応が加わります。 - 日常生活の見守りとサポート
・常時の見守り(転倒防止、徘徊対策など)
・家事の代行や全面的なサポート
・スケジュール管理(1日の流れをシンプルに整理するなど) - コミュニケーションや心理的サポート
・シンプルな言葉遣いやゆっくり話す工夫、安心感の提供 - 緊急時の対応
・徘徊防止策(GPSデバイスなどの導入)や、強固な緊急連絡体制の整備 - 介護サービスの活用
・介護保険サービス(訪問介護、デイサービスなど)
・レスパイトケア(介護者の休息を確保するための短期入所サービス)
介護費用
最小で年間12万円から、特別養護老人ホームなどでは年間600万円かかることがあります。
洗脳と支配の再燃
毒親が近づいてくる理由には、孤独感、経済的困窮、介護の必要性などが挙げられます。これにより子どもに対する支配や依存が再燃する可能性があります。
加害者家族になる可能性
高齢者の交通事故や犯罪行為に巻き込まれ、子どもが加害者家族となるリスクも考えられます。
加害者家族になる可能性

- 高齢者ドライバーによる事故
- 年金生活が困難な場合、窃盗や詐欺などの犯罪に手を染めることも
- 「アルツハイマー型認知症」や精神疾患による判断力や感情失禁による暴力的な行動や犯罪行為
- 「前頭側頭型認知症」による万引き、窃盗、性犯罪、交通ルール違反、暴行暴言障害
どう向き合えばいい? 大切な3つの視点

このような現実を前に、「やはり関わるのは難しい」「でも完全に無視もできない」と、心が揺れ動くのは当然です。もし関わる、あるいは関わらざるを得ない状況になった場合、あなた自身を守るために、以下の3つの視点を大切にしてください。
毒親の老後〔中編〕のまとめ
今回は、もし親との関わりを選んだ場合に起こりうる現実的な負担(経済的・介護・精神的・加害者リスク)と、その中で自分を守るための3つの大切な視点(境界線・サポート・本心)についてお伝えしました。
「関わる」という選択は、決して簡単なものではありません。愛情をかけてくれた親でさえ大変なのですから、複雑な過去を持つ場合はなおさらです。
私自身の経験(母との関係)からも、これは綺麗ごとでは済まされない問題だと痛感しています。特に、ご自身がキャリアや子育てで忙しい時期に、この問題が重くのしかかってくることも多いでしょう。
もしあなたが今、まさにこの問題に直面し、どうしたらいいか分からずに苦しんでいるなら、どうか思い出してください。あなたの人生は、あなた自身のものです。
考えにいきづまり、思いと行動が伴わなくて苦しい時には、必要であれば専門家の力を借りることをためらわないでくださいね。
次回は、「関係を断つ」という選択肢について、そしてどちらの道を選んだとしてもつきまとうかもしれない「罪悪感」とどう向き合うか、といった点について、さらに詳しくお話ししていきます。
✍オンラインカウンセリング「あたらしい今日」主宰・カウンセラー真由