前回の記事「なにもかもリセットしたくなる人達~リセット症候群」では、リセット型には4つの種類があることや、それぞれの際立つ特徴をまとめました。
そのなかでもとくに、「心理的リセット型」について、美容整形と「物理的リセット型」「心理的リセット型」についてを掘り下げました。
今回は、リセット癖の本人の困りごとと、『振り回される周囲』が具体的にどのように困ってしまうのかについてをまとめます。25年から35年も昔の、私自身への反省と詫びの気持ちを込めながら――。
リセット癖:本人の困りごと

- 問題の根本解決が進まない
- リセットして一時的にスッキリしたような気がしても、同じような人間関係のトラブルや自己否定感が必ず繰り返される。
- スッキリしたような気がするのはほんの一瞬で、後悔と「…でも仕方ないじゃん! 私は悪くないもん!」などの自己弁護が心の中でいったりきたり。
- 早くて3日、長いと1週間くらい『相手のほうから』なんらかのアクションを起こしてくれないか、引き留めてくれないかなどと自分勝手に待ってしまう。そして激しく落ち込む。
- 本質的な問題(コミュニケーションの苦手意識や、自己肯定感の低さなど)は解決されないまま。
- 社会的信用の低下・経済的不安
- 頻繁に環境を変えることで、転職回数が増えたり、引越しにもコストがかかるため貯金ができなかったりもする。
- 結果としてキャリアの積み上げや、経験に裏打ちされた自信、金銭面の安定、社会的信用を得にくい。
- 家族がいるばあいは、家族を経済的にも精神面でも不安にさせ続けるため、信用も威厳も失う。
- 孤立感・孤独感の増大
- 人間関係をリセットし続けることで、長く続く友だちや信頼関係が育ちづらい。
- リセットをするたびに、自分を理解してくれる存在が少なくなり、不安感や疎外感がさらに高まっていく。
- さみしさを埋めようと異性に頼ることがあるが、年々、かまってくれる「異性の質」は下がっていく。
- 衝動的行動への後悔
- 感情が高まったときにリセット行動をしてしまい、冷静になった後に「やりすぎた」「もう少し考えればよかった」と後悔する。
- しかし一度「自分から」リセットをしてしまったため、素直に謝ることも難しく、また、仮に謝ったとしても許してもらえず元に戻ることが難しいことも。
リセットされた側:周囲の気持ち・困りごと

突然関係を断たれてしまう不安
唐突に「もう連絡しない」「もう連絡しないで」「やっぱり相性が良くないと思う」「そんな人だと思わなかったから、終わりにしたい」などと言われたり、SNSからブロックされるなどの態度をとられ、原因がわからず非常に戸惑う。
1度、2度は許せても不信感は強く残るため、3度目は許すことができない。
親や家族がリセット癖により転職を繰り返す不安
金銭面・生活面の不安
- 収入が安定しない
頻繁に転職していると給与が下がったり、転職活動中は収入が途切れる可能性があります。家族としては家計の見通しを立てにくくなり、不安定さを感じやすくなります。 - 生活設計の困難
マイホーム購入や子どもの進学など、大きなお金が必要なライフイベントの計画が立てづらくなるため、家族全体の将来像が描きにくくなります。
精神的ストレス・不安
- 将来への漠然とした不安
「またすぐ辞めてしまうのではないか」「次の仕事は見つかるのか」「収入が途絶えたらどうしよう」といった不安が常につきまといます。生活の安全が約束されているはずの家・家庭のなかが「不安で落ち着かない」ことになります。 - 家族関係のギクシャク
転職が多いと、本人は「リセット」することで気分を一新しても、周囲は振り回される形になりやすいです。「安定して働いてほしい」という思いと、本人の「変化を求める気持ち」が噛み合わず、夫婦間の口論や不信感が募ります。
子どもへの影響

- 学校や友だち関係の継続への影響
親のリセット癖による転職で、転居を余儀なくされるばあい、子どもは転校を繰り返す可能性が出てきます。友だち関係の再構築や、新しい環境への対応が子どもにとって大きなストレスに。 - 友だちのお家との「違い」に混乱
クラスメートや友だち、近所の人たちの家庭事情と比較し「違い」を子どもなりに感じます。家庭内の事情を「言ってはいけない」「気づかれてもいけない」と仲のいい友だちに対して秘密が増えることは子どもにとって大きな精神的負担になります。 - 精神的安定の低下
家庭内がいつも落ち着かず「次はどうなるのか分からない」「落ち着ける日が見えない」という状況が続くと、子どものメンタル面に大きく負担がかかり、集中力の低下や情緒不安定を招く可能性があります。
社会的な迷惑・苦労
- 親族や周囲への説明・フォロー
頻繁に転職をする背景を理解してもらうのが難しく、親や義父母など親族からの心配や口出しが増えるばあいがあります。当人ではない家族の誰かが、説明やフォローを求められたり、責任を追及されることもあり、大きな精神的負担に。 - 信用問題につながる可能性
住宅ローンなどの審査で、職を転々としていると不利になりやすいことがあります。また、家族ぐるみで付き合っているご近所や友人関係にも「大丈夫なの?」と心配・不信感を持たれるなどの影響も出てきます。
フォローが意味をなさないことに気づき距離を置く
- リセット癖が強い人に対してのフォローが、さらにリセット癖を加速させていることに気がつき距離を置きはじめる。 振り回されることに疲れたりうんざりしてしまい、次第に距離を置くように。
- 「リセットするぞ」と暗に脅されているような気持ちになり、付き合っていくのが怖くなり、信用ができない。
信頼関係の構築が難しい
- お互いに積み重ねていく安心感や、良い思い出が増えていかない。
- リセット癖がある人の感情の起伏の激しさに対して信用ができなくなり、一緒にいても話していても心からは楽しめない。

次回はリセット癖を「直したい」と思っている方に向けて、私自身の実体験と臨床を重ねてきた経験からのアドバイスをまとめたいと思います。
前回の記事でも書きましたが「リセット癖・リセット症候群」は根が深いです。
愛情の確認やさみしさ・見捨てられ不安からくるためし行為としてリセット癖を用いてしまう人もいれば、当時の私のようにたった1つの些細なきっかけが「なにもかも嫌!」となってしまう、全消去型のリセット症候群をこじらせているタイプのかたもいるでしょう。
本人がそれを『毎回、強く後悔している』ことは経験者として痛いほどわかります。しかし同じように…いえ、本人以上に、周囲は悲しんだり傷ついたり不安に陥るんです。
私はふだん心療内科に勤めていて、空いた時間を使ってオンラインカウンセリングを行っていますが、年に何度か「リセットされる側」になることがあります。
ためし行為としてリセットされることもあれば、全消去のひとつとしてリセットされることもあります。される側になると分かるんです。慣れてるけど、何度も味わっても慣れたくない。さみしいものですよ。一 真由〔心療内科・カウンセラー〕つづく