受動型ASDの家族やパートナー気持ちが掴めずなんだか寂しい…。
どうしてなにも言ってくれないんだろう…。
そんな孤独やもどかしさを抱えていませんか? 受動型ASDの特性を持つ人たちの「困りごと」や「しんどさ」の背景を具体的に知ることで、見えてくる光があります。当コラムではその特性を紐解き、専門家の視点で解説します。
発達障害の特性や傾向は十人十色なので「100%その通り!」とはいかないかもしれませんが、参考になる部分を拾っていただければと思います。
受動型ASDの目立つ特性
特徴 | 説明 |
---|---|
表情が乏しく感情が伝わりにくい | 表情や感情の変化が乏しく、本人は笑っているつもりでも真顔や無表情に見えることが多いです。穏やかに見える一方で、本心が伝わりにくく誤解されやすいです。 |
単純なやりとりは得意だが自由回答は苦手 | 単発のやりとりやYes/Noで答えられる質問には対応しやすい反面、自由回答やアンケートに答える、感想文は極端に苦手です。 |
想定外に弱く決断に不安を感じる | 想定外のことに臨機応変に対応するのが難しく、自分で決めることに強い不安を持ちやすいです。 |
他者に合わせてしまいやすい | 自分の考えに自信がなかったり、自分の考えがないことが多いので、相手の意見に合わせることでその場をなんとかやり過ごそうとする傾向があります。 |
強引な相手に流されやすいがこだわりもある | 自分の考えに自信がないし、主張したいほどの意見がないので、相手の考えを無条件に受け入れることがあります。一方で「譲れないこだわり」を持っていたり「過去のルーティン」をとても大事にしている――変えられない――部分もあります。 |
感情と体調の自覚が難しい | 自分が何を感じているのかを、自分自身で把握するのがとても難しく、気分や体調の変化に気づきにくい一方で、暑さや痛みにすごく弱い部分もあります。 |
わからないときに黙ってしまう | 本当は理解できていなくても、意見を言うことがはばかられることがあります。「それどういう意味?」「なんでそう思うの?」などと言われても答えられないので、黙ってしまうか、「わかった」と言ってしまいます。 |
受動型ASDはとくに女性に多い
受動型ASDとは、一言でいえば「自分がなく受け身で、相手に流されてしまいやすい」自閉スペクトラム症です。
- 自分がどうしたいのか、自分が本当はどう思っているのかという「自分の感情がわからない」
- 自分のわからない感情を言語化するのがとても苦手
- 自分の感情を心の外側に出すことが困難
などの傾向が共通して見られます。一見、目立った違和感や問題行動が少ないためトラブルが起こりにくいように見えますが、その反面、他者に利用されやすいという弱点があり、蓄積した強いストレスや悲しみなどから鬱病や様々な不安障害など「二次障害のリスク」が高い傾向にあります。
男女比率でいうと女性に多くみられます。幼少期には「控えめでおとなしい子」「自己主張せず育てやすいお利口さん」とされ、特性に気づかれることが少ないでしょう。しかし、二次障害がきっかけとなって10代以降に初めて気づかれるケースが多いです。
受動型ASDの人が感じやすい「日常のしんどさ」
1. 自分の意見や気持ちがよくわからない
- 「どう思う?」と質問されるのがすごく苦手。
- 自分で考えて相手に言うことが苦手。どう言葉にすればいいのかがわからない。
- 意見を求められたり「私の考え」について質問されるのが本当に苦手。
- 主張したいほどの自分の考えが本当にないので、私はこう思うなどと言うことができない。
- アンケートに答えなければいけないのは苦痛だし、学生時代に読書感想文を夏休みの宿題で出されると本当につらかった。周囲にはわかってもらいにくいが、とくに自分の意見がないことが多いため。
2. 正解を探し続けて疲れる

- なんて答えるのがこの場では正解なんだろう? と考えているうちに、ものすごく時間が経ってしまうことも。※相手はイライラしたり不機嫌になっている
- 相手と自分の考えが「=」でないとわかった瞬間に、自信がなくなり、相手の意見に完全に流される。
- 自分にとくだん考えや意見がないので、相手にとって「正解か不正解か」が最優先になりがちなので、「どう思う?」「どうすればいいかなあ?」と悩みを打ち明けられたり、アドバイスや意見を求められるとすごく困る。
- 相手の質問の意味がわからないことが多い。
3. 感想・感情・表情が出しにくい
- 自分では笑っているつもりでも、顔は真顔。表情が乏しくなりがち。
- 自分の感情がわからないことが多いので、それを説明するのが難しい。
- レビューを書いたり、感想を求められるのが心底苦手。「おもしろかった」「助かった」以外の深い部分を言ったり思ったり書いたりができない。
- 自分の意見がとくにないので反論がない時は、相手の発言をオウム返しすることがよくある。相手によっては怪訝な顔をされたり不信感をもたれることもある。
4. 他人の感情が読めない・想像できない
- (たとえ恋人や家族であっても)相手の感情が真には理解できない。
- だから、そんなつもりはないのに相手を傷つけてしまうことがあって、それが嫌でさらに発言するのが怖くなる。
- 相手の感情を読み取ることに自信がなく、「怖くて何も言えない」状態に陥る。
5. 未経験のことは想像ができない

- 要領を掴むことが苦手。
- 子育て、仕事、旅行など、経験していないことに対しての『想像』や『シミュレーション』『下準備』がとても苦手。
- 子育てが未経験のばあい、子どもが産まれたらなにがどうなるのか、どんな危険がどのくらいあって、なにをどう対応すればいいのかがまったく想像できない。
- その仕事が未経験の場合も、事前にシミュレーションをしたり、最善と最悪の両パターンをイメージして前以て用意しておくなどができない。
- 生活に長く組み込まれたルーティン作業はできるが、突発的な出来事に対応するのがすごく苦手。
- 子育ては突発的なことの連続なので本当に難しい。子どものことはとても愛していても、受動型ASDの特性によって周囲にはそうは見えないかもしれないと思うと悲しい気持ちになるが、その気持ちすらも言葉にしてうまく伝えられない。
6. 人とのやりとりに消耗する
- 人とうまく関われない。
- 会話が続かない、雑談ができない、会話が成立しづらい。
- 相手の言葉の“ニュアンス”や“意図”が読み取れず、見当違いな返事をしてしまったり黙り込んでしまうことがある。※相手は無視されたと思ってしまう
- 相手から誘われたら喜んで参加するのだけど、自分から能動的に相手を遊びに誘ったりができない(相手を好きか嫌いではなく、好きだとしてもできない)ので、相手をさみしくさせたり悲しませてしまう。
- 自分から誘ったとして、万が一、楽しくない1日になったり、予約したお店が美味しくなかったら、とてつもない罪悪感をおぼえ心が潰れてしまうのでいつも相手に任せてしまう。
- 相手を大切に思っていても、行動や言葉でそれがうまく伝えられず、結局…距離ができてしまう。
7. 決められない/任されるのがつらい

- 自分で決断することが苦手。
- 自分から提案することが苦手。
- 本当に自分では決められません。自分で決めると間違っていることが多いから。
- 自分から相手を誘うと、誘った側の責任としてスケジュールを立てたりお店の予約をしなければいけないし、相手と話し合って予定を決めるにしても、相手から「何が食べたい?」「どこに行きたい?」と質問をされても、自分が行きたいところやしたいことに自信がないので、やはり相手の判断に任せてしまう。
8. 興味や関心がうすい(ように見える)
- 何に対してもそもそも興味や関心が薄い、ほとんど「ない」と言ってもいい。
- レジャーや趣味に積極的になれず、「何がしたい?」と聞かれるのがつらい。
- 周囲から「無気力」「冷たい人」と誤解されることもある。
- どうしても行きたいところや、どうしてもやりたいことなどが「ない」「ほぼない」というのが根底にある。
9. 自分でも困っていることがわからない
- 日々モヤモヤしているけど、何がしんどいのかを言葉にできない。
- 自分がなにに困っているのかが、そもそもわからないことも多い。この感覚は悲しいくらい周囲には理解されない。
- もうずっと…うっすらと、生きていたくないと思っている。
まとめ

受動型ASDの方は「周りとトラブルを起こしにくい」反面、自分の感情を見失いやすかったり、本当に主張がないことも多いため、結果的に家族や大切な人とのすれ違いを引き起こすことも少なくありません。
また、新しい状況をイメージして下準備するのが苦手であったりと、コミュニケーションや対人関係でさまざまな苦労を抱えています。
一方で、家族やパートナー、学校内などの枠組みの中で「時間をかけて決められたルーティン」をしっかりこなせるなどの得意分野もあり、苦手な部分をうまく補える環境やサポートがあれば、安心して生活が送れるようになります。
『自分取扱説明書』などを作成し、お互いの特徴や特性を理解し合い、それぞれの得意や苦手を尊重すると、ストレスや摩擦を減らしより良い関係を築くことができるでしょう。もし身近な方に同じような悩みを抱えている方がいれば、このまとめが少しでも理解の助けになれば幸いです。