人との適切な距離感と境界線|発達障害特性とバウンダリー〔後編〕

発達障害・特性

適切な距離感を越えて親しげに接されると「圧を感じる」「恐怖を感じる」「要注意」「図々しい」と嫌悪され、逆に距離をとりすぎると「丁寧だけどよそよそしい」「なんか壁を感じる…」と寂しさをおぼえさせてしまう。

自分と相手との「適切な距離感」と「境界線」って本当に難しいですよね。いや、もう本当に…。

例えば、90人の人からはありがたがられても10人からは「お節介」「頼んでない」「善意の押し売り」と言われたり。

30人からは「ちょうどいい優しさ」と絶賛されても、70人からは「冷たい」「もっと分かりやすく優しい方がいい」などと手厳しく評価されたりする。

でもこれって『普通のこと』なんです。100人中100人に〇を出されることなんてほぼない。

  • たとえば、男性の多い家族で育つと「おおざっぱ・雑・がさつ・ぐいぐいくる」と距離感や接し方を非難されることがあります。
  • たとえば、自然豊かでご近所さんとの交流が頻繁な環境でのどかに育つと「距離が近い・親しげにしすぎ・フレンドリーと馴れ馴れしいの差がない」と言われることもあります。
  • たとえば、自己主張するのが当然な外国で育つと「自分を出し過ぎ・自己評価が高すぎ・控えめじゃない・わがまま・距離が近い・ボディタッチが多い」などと眉を顰められることもあります。
  • ASDやADHDなど発達障害の特性傾向があったり、境界知能があるばあい「相手と自分の境界線を見極め、適切な距離を正しく見定める」ところに難しさをおぼえる人も多いでしょう。
  • また、過度な緊張やプレッシャーの強さで、無意識に距離感が近づいたり悪意なくタメグチになってしまう人もいらっしゃいます。

悪意なきところまでも非難されやすい今の時代って、すごく怖いと思います。単純な価値観の違いや、善意からしてきた行動を「非常識! ありがた迷惑! 恩着せがましい!」と声を挙げられるのって傷つきますよね。

目には見えない5つのバリア

では、一体どうすればいいのでしょうか? 

私たちは日々の生活のなかで、人との距離や関わり方をなんとなく調整しながら過ごしています。そこには『目には見えないバリア』のようなものがあって、お互いに無理なく、暗に無理強いされることなく、心地よく過ごすための大切な境界線となっています。

たとえば、以下の5つの要素が代表的なバリアとして考えられます。

  1. からだ
  2. 距離感
  3. プライベートな時間
  4. 意思や感情、価値観
  5. 持ち物、大切にしている物

からだのバリア・境界線

私たちの「からだ」は自分自身の一部であり、とても大切な存在です。

だからこそ、相手の本当の気持ちを無視してむやみに触れることは、相手の心を深く傷つけてしまいます。痴漢などの直接的な被害はもちろんのこと、取引や駆け引きの手段として相手に性行為を暗に要求したり、暴力的に扱ったりすることも絶対に許されません。

境界線やバリアに侵入されやすい人➡もし、自分の気持ちが「本当は嫌だ」と警報を鳴らしているのに、相手がそれを求めてきたとしたら、その相手を受け入れる必要はありません。

距離感のバリア・境界線

人との会話で「顔が近いな」と感じたり、私生活を詮索されたりして落ち着かなくなることはありませんか? これは、相手があなたの「距離感のバリア」に近づきすぎているサインかもしれません。

「顔が近いですね…」「そういうことを聞かれるのは嫌です…」「答えたくありません」と言えないことの方が多いと思います。そういった時は、スマホとバッグを持って、その場をいったんスッと離れることをお勧めします。ここで注意点がひとつ。

仮にその場が飲み会で、再び席に戻ることになったら――お店・カラオケ・誰かのお家ほか――念のため、その場を離れる際にテーブルに置いていった(さっきまで飲んでいた)アルコールドリンクは飲まない方が良いかも。

飲み会でいったん席を立つばあいは、飲みかけのグラスは置いていかない(飲み切ってから)というのが身を守るための新ルールですね。

おかしなオクスリを入れられてしまわないための予防策のひとつですが、なによりも、距離が近かったりプライベートをやけに詮索される飲み会からは「嫌だな」「居心地が悪いな」と感じたご自身の直感を信じて、去るのがいちばんです。

適度な距離感は、相手との良い関係を育むためにも大切です。相手がどれくらいの物理的・心理的な距離を心地よいと感じるかは、人それぞれ違います。

私生活詮索の目安10点

私自身が――相談者や患者さんを除き――とくに気をつけているのは下記10点。相手から聞かれたり相手が自分から言ってくるまで、私からは聞きません。クリニック内で「先輩」「上司」という立場にあたる者たちにも、本人が自分で話題にするまでは聞かないようにと指導しています。

  1. 恋人の有無
  2. 休みの日の過ごし方
  3. 有給休暇の使い道
  4. 金銭面の事情(年収や貯蓄額など)
  5. 家族構成や家族との関係
  6. SNSのアカウントや友人関係
  7. 過去の恋愛や結婚歴
  8. 自宅の場所や部屋の間取り
  9. 趣味・娯楽にどれだけお金や時間を使っているか
  10. 普段の食事や生活スタイルの細かい内容

プライベートな時間のバリア・境界線

誰だってひとりになって好きなことを楽しむ時間や、自分のペースで休む時間が必要です。たとえ家族やパートナーであっても、一方が「ちょっとひとりになりたいな」と感じたら、その気持ちを尊重することが大切です。


逆に、自分がプライベートな時間を大切にしたいのに、相手がそれを理解してくれないようであれば「この時間は自分のために使いたい」という思いを、きちんと伝えてみてください。お互いが自分らしく過ごすためにも、ひとりの時間は必要なものです。

就業時間外や休日に仕事の連絡をしないなんていうのは、もはや当たり前で、仕事関係者(上司や先輩・取引先の責任者)が、立場の弱い者(部下や後輩・取引先担当者)に連絡を取るなんていうのは緊急性の高いばあいを除いて言語道断。

意思や感情、価値観のバリア・境界線

親が子どもに、あるいはパートナー同士で「こうするべき」「こうしたほうがいい」と相手の意思を軽んじて勝手に決めてしまったり、「本当はこうしたかったんでしょ?」「断れなかっただけでしょ?」などと相手の感情や本音を決めつけてしまうことは、相手の境界線を侵害する行為です。

また、相手が大切にしている価値観を「それは間違っている」「普通はこう」と見下したり押しつけたりするのも同様です。

自分の考えが相手と違うときは、「なるほど、そういう意見もあるんだね!」といったん受けとめたうえで、自分の思いも「私はこう考えているよ」と率直に伝える。まずは相手を受けとめることから!

境界線やバリアに侵入されやすい人➡「本当はこうしたいけど、相手に合わせないとダメかな…」と、自分の気持ちや価値観を後回しにしすぎていると、いつか心が疲れて折れてしまいます。あなたの意思や感情、価値観を尊重してくれる人と、その人の意思や感情、価値観を尊重しながら『対等な関係』を築いていくことを心掛けてみてね。

持ち物、大切にしている物

相手が大切にしている物を勝手に見たり、触ったり、勝手に捨てたりするのは、信頼関係が大きく崩れ、深刻なバリア侵害・境界線破壊になりうる行為です。

あなたの目には些細な物だったり、不要に思えたり、その物がなんらかの諸悪の根源に思えたとしても、その人にとってはかけがえのない大切な思い出や安心感と結びついていることがあります。

一声かける、ほんのひと言『確認』するだけでトラブルを防げたり、信頼感が生まれます。

自他境界線が「曖昧」になりやすい人のまとめ

境界線やバリアと言うと、ちょっぴり大げさで物々しい響きがあるかもしれませんが、これは決して人を遠ざけるためのものではなく、「お互いに傷つけ合わずに、安心して近づくため」に必要なものです。

境界線という目には見えないバリアは「誰しもが持っているもの」であり、「本来、守られるべきもの」であり「自分を守るためにNO! と言うことが許されるもの」です。

けれど実際には、なかなかうまくいきません。とくにNO! を言うのはちょっぴり勇気が要るものです。人によっては恐怖を伴うほどの勇気が必要なもの。

どの境界線も、すべての人にとってとても大切な部分だからこそ、勇気が要るかもしれませんが、自分から「ここは大切にしたいんだ」と伝えてみてほしいです。言うのが怖ければ頷かない・答えない・リアクション(反応)をしないという形でNOを示してもいいでしょう。

もしも、相手から「ちょっと踏み込み過ぎ…」といったようなNOを示されたときは、悲嘆に暮れることなくまずは相手の意思を受け止めて、「こういう距離感が心地いいんだな」と理解しようとする姿勢が大切です。

自分も相手も、どちらも尊重し合える距離感を見つけていくことが、より穏やかで心が通い合う関係を育みます。

誰しもが心のなかに大切なバリアを持っています。

相手のそこに無遠慮に踏み込み過ぎず、本心では嫌なのに侵入を許してしまうことなく、自他境界線を無視せずに日々を穏やかに生きてほしいです。

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